WEP014  ポスター①  7月31日 1F大会議室 13:00-15:00
シリコン単結晶薄膜における相対論的電子ビームのレインボー散乱の初観測
Observation of rainbow scattering of relativistic electrons in an ultrathin Si crystal
 
○高林 雄一(九州シンクロトロン光研究センター)
○Yuichi Takabayashi (SAGA Light Source)
 
原子や原子核どうしの衝突現象は古くから研究されてきたが,1960年から70年代にかけて,レインボー散乱と呼ばれる現象が観測された.レインボー散乱とは,虹の散乱過程と同様に,粒子がある特定の方向に散乱される確率(散乱断面積)が高まる現象である.一方,1980年代に,標的が結晶の場合でもレインボー散乱が起こることが理論的に予言され,その後,陽子ビームとシリコン単結晶薄膜を用いて,レインボー散乱が観測された.陽子は正の荷電粒子であるが,次のステップとして,電子のような負の荷電粒子のレインボー散乱についても興味が持たれる.しかし,その後,その方面の研究は進んでこなかった.そこで,本研究では,単結晶薄膜における電子のレインボー散乱の初観測を目的とする.実験はSAGA-LSのリニアックからの255 MeV電子ビームを利用して行った.標的として厚さ470 nmのシリコン単結晶薄膜を用いた.結晶透過後の電子ビームの角度分布は,結晶から5.12 m下流に設置されたスクリーンモニタを用いて測定した.電子ビームを結晶の<100>軸に平行に入射した条件(軸チャネリング条件)と,その条件から結晶を0.1度程度まで傾けた条件で測定を行い,レインボー散乱に特徴的な角度分布の測定に成功した.また,測定結果は,シミュレーションによってよく再現され,正の荷電粒子とは異なる散乱角度の衝突係数依存性が重要な役割を果たしていることが明らかになった.