WEOP01  合同セッション  7月31日 テルサホール 10:00-10:30
粒子線治療の現状と将来
Current status and future prospects of particle therapy
 
○岩井 岳夫(山形大学医学部東日本重粒子センター)
○Takeo Iwai (Yamagata Univ)
 
1946年にRobert Wilsonが荷電粒子のブラッグピークによるがん治療、いわゆる粒子線治療を提唱して以来、粒子線治療は徐々に広がりを見せ、現在では世界で100を超える施設が治療を実施している。日本は米国に次いで2番目に施設数が多く、また世界全体の施設の約1/3は日本メーカーが納入しており、この分野において日本の加速器業界が果たした貢献はきわめて大きいと言える。本講演では、粒子線治療が近年どのように発展しているか、またこれからどういう方向に向かおうとしているのかを概説する。 粒子線治療は照射粒子として陽子を使う陽子線治療と、主として炭素を使う重粒子線治療に大別される。ブラッグピークによる線量集中性の良さは陽子線と重粒子線で共通であるが、がん細胞を殺傷する生物学的効果は重粒子線が高い。いずれも治療には水中で30cm程度の飛程を必要とするが、重粒子線の方が粒子エネルギーが高くm/qも大きいため磁気剛性が約3倍大きくなり、その分装置が大型になる。これはコストに直結し、陽子線施設に比べて重粒子線施設が少ない原因の一つとなっている。また、照射ビームの角度を変更するための回転ガントリー装置は陽子線では普及しているが、重粒子線では前述の磁気剛性のため小型化が難しく、世界でも本学を含めまだ4台しか稼働していない。国内では長く先進医療(保険収載するか自由診療にするかを見極める段階の評価医療)の枠組みで粒子線治療施設は治療を続けていたが、良好な臨床成績を積み重ね、2016年以降多くの部位に公的保険が適用されるようになった。山形大学の例では2023年度は患者の約95%は公的保険で治療を実施しており、国内では既に特別ではない、当たり前の治療と言えるところまで普及してきている。粒子線治療を含む放射線治療は、照射の精度を高める方向へ急激な発展を続けている。現在注目されているのはadaptive radiotherapy(適応放射線治療)である。従来のワークフローでは照射の数週間前に撮影したCT画像を頼りに線量分布を決めていたが、照射当日、治療寝台の上で得た画像情報を元にオリジナルの線量分布を修正するonline adaptive radiotherapyがX線治療では既に実用化され、広がりを見せつつある。online adaptive particle therapyの研究開発も進められているが、まだ実現には至っていない。今後機械学習などによりワークフローが高速化されることで、実現に近づくと予測されている。また最近の目立った動きとしては、直立型照射装置の実用化が挙げられる。Leo Cancer Care(英国)によって商品化されたMarieTMシステムは、座位ベースで患者位置を制御・回転させ、治療位置で上下する縦型CTの画像で患者の位置決めを実施するものである。これは海外では近く臨床使用が始まると見られており、国内でも群馬大学が同社と提携して研究を進めると発表された。これを使ってどの部位でも治療できることになれば、陽子線も重粒子線も回転ガントリーが不要になり、小型の陽子線加速器と組み合わせられれば既存のX線治療室に導入できるサイズにまで小型化・低コスト化される。これは粒子線治療のgame changerとなるポテンシャルを秘めており、今後の発展が注目される。この他、超高線量率照射(Flash)や、LET制御などの新しい技術動向について概説する。