第4回(2007年度)加速器学会賞受賞者決まる。
2008年6月7日開催の学会賞選考委員会における選考をもとに、評議員会で審議した結果、以下のとおり決定した。 |
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受賞者の氏名(敬称略)
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受賞者の氏名(所属)、研究課題等、推薦理由は、以下のとおりである。 |
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奨 励 賞 | |||||||||||||||||||||
氏名:原田健太郎 所属:高エネルギー加速器研究機構物資構造科学研究所助教 業績:パルス四極電磁石を用いた新しい入射システムの研究 <推薦理由> 原田健太郎氏は、従来とまったく異なるスキームでの電子蓄積リングへのビーム入射・蓄積を開発した。 通常、蓄積リングへのビーム入射は複数台のキッカー電磁石によって局所的なバンプ軌道を入射点に作り、その中心軌道のごく近い位置に小振幅のベータトロン振動でビームを入射する。最近話題になっているトップアップ運転では、このバンプ軌道が完全に閉じないことによる蓄積ビームの横方向重心運動の抑制が非常に大きな課題となっている。一方、この新しい入射スキームは入射点において四極磁石をパルス的に励磁し、蓄積ビームの横方向重心運動を励起することなく入射ビームを中心軌道に沿う方向に蹴るものである。従って、入射には最低一台のパルス四極磁石があればよく、バンプ軌道を作らないことからトップアップ運転にも有利と考えられる。 原田氏はこの新入射スキームを実現する為に、PF- ARにおいてシミュレーションも含めたビーム光学計算を行い、パルス四極磁石の設置場所を決めるとともに必要とする磁石性能を評価した。これに基づいて非常に速く動作するパルス四極磁石および電源を製作してPF- ARに導入し、世界で初のパルス四極磁石によるビーム入射を成功させた。 この入射スキームでは蓄積ビームの四重極振動が励起されるため、これを抑制するカウンターパルス四極磁石を必要とすることや、電流依存の不安定性によるビームサイズ増大に起因するビーム損失が実験で確認されていることなど、解決すべき課題もあるが、独自性の高いアイディアを実験で実証したことに高い評価が与えられる。 以上のような理由によって原田氏を加速器学会奨励賞に推薦する。 |
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技 術 貢 献 賞 | |||||||||||||||||||||
氏名:末次祐介 所属:高エネルギー加速器研究機構加速器研究施設准教授 業績:櫛歯型RFブリッジの開発 <推薦理由> 末次祐介氏は、独自のアイディアに基づいた新しいRFブリッジを開発し、これをKEK- Bファクトリーの蓄積リングに導入し、安定に大電流運転を行なう事に貢献した。 従来蓄積リングのベローズあるいはゲートバルブにおいては、ビームの壁電流をスムーズに流すためにフィンガーコンタクトと呼ぶ弾性のある金属薄板を断面に沿って並べたものであった。しかしながらこの従来型のRFコンタクトではKEK- Bファクトリーでの1Aを越える大電流運転においてフィンガーの発熱・破損という問題がしばしば発生した。 末次氏の開発した櫛歯型RFブリッジは櫛の歯型をした堅牢な金属ブロックを対向して組み合わせたもので、従来の板状のフィンガーと全く異なる発想である。櫛歯型RFブリッジは金属ブロックなので周囲に熱伝導しやすく、多少の発熱があっても変形する事はない。またインピーダンスも従来型に比べて小さく電子ビームの不安定性の抑制にも役立つ等の利点がある。 櫛歯型RFブリッジはすでにKEK- Bファクトリーで有効性が実証され、またメーカーによって製品化されており、放射光リングの性能向上などの加速器技術への貢献は非常に大きいと言える。 以上のような理由によって末次氏を加速器学会技術貢献賞に推薦する。 |
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特 別 功 労 賞 | |||||||||||||||||||||
氏名:馬場 斉 所属:高エネルギー加速器研究機構 業績:加速器の大電力高周波技術に関する功績 <推薦理由> 馬場斉氏は、昭和33年4月、東京大学天文台から東京大学原子核研究所へ転出後、750MeV 電子シンクロトロンへ我が国で初となるユニット化制御システムを導入、その後、KEKに移られ、日本で始めてとなる本格的な素粒子物理学用陽子シンクロトロン(12GeVPS)、更にトリスタン計画(電子・陽電子衝突型リング)の建設に参画、それと同時に昭和54年からは技術部長として技術職員の技量向上に努め平成元年3月KEKを退官されました。退官後は、加速器関連企業での技術指導やXFEL/SPring8およびJ-PARC等の先端的加速器施設でのモジュレータや高電圧パルス電源の開発等に関する技術指導と若手育成に尽力されてきました。 この50有余年の間に馬場斉氏が行ってきた加速器関連の業績は、トラッキング精度が高く、低ノイズなシンクロトロン電磁石用大電力電源の開発、トリスタンでの508MHz1MW直流出力クライストロンとその電源の開発、S-bandクライストロンと高電圧パルス電源、その他rf関連機器の開発、および大電力受変電設備等に関する設計指針等の技術的成果は、今日の放射光科学を初めとする素粒子物理学、原子核物理学等で利用される最先端加速器システムであるXFEL/SPring8やJ-PARC等の実現に、どれも不可欠な技術として大きく貢献しています。また、これらの技術の民間移転として700ppsと言う高繰り返しの高電圧パルス電源システムを開発し、現在医療現場で電子ビーム滅菌システムとして利用されています。 さらに、これらの技術開発を通して、研究所・大学のみならず関連企業での若手研究者および技術者の育成にも尽力され、特にクライストロン関連企業の技術的水準を世界最高レベルに引き上げたことは特筆に値します。このように加速器の要素機器の内、最も重要な大電力電源とrf源の分野での技術開発と、関連機器での人材育成の面で加速器分野の発展に大きく貢献された馬場斉氏を加速器学会特別功労賞の最適任者として推薦致します。 |
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氏名:遠藤元正 所属:株式会社トヤマ取締役相談役 業績:加速器の特殊機器開発における貢献 <推薦理由> 遠藤氏は1945年から1954年まで東京大学航空研究所に在職され,その後遠藤製作所を新宿区戸山町に立ち上げました.1960年から東大原子核研究所に機器納入を始め,1967年にはES リングの建設に際し主磁石及び真空チェンバーの開発に貢献されました.1968年に社名をトヤマに変更し,1971年からの高エネルギー研究所陽子加速器の建設において,特殊電磁石,ビームモニター及びそれらの真空チェンバーの製作を担当しました. 加速器機器の開発では検討しながら進める必要がありますが,トヤマは研究者と一体となって技術開発ができ,小回りがきくというか研究者の無理難題を受け入れてくれる社風でありました.このため,特殊な用途の電磁石,ビームモニター,駆動機器,及びそれらの真空機器の開発製作に大いに貢献されました.このように遠藤氏は,研究における機器製作の重要性を理解され,研究者にとって都合の良い小規模の機器開発を受け入れてくれる社風の会社を作り上げられました. トヤマはその後も,多くの放射光施設のビームラインの真空チェンバー,多くの加速器の特殊電磁石,ビームモニター及びそれらの真空チェンバー等,の製作に長年貢献し,実際に機器開発を行った多くの研究者に認められています.以上述べましたように,遠藤氏が,加速器関連機器の開発製作を担うことができたトヤマという会社を作り上げ,長年にわたる加速器業界への寄与はきわめて大きかったといえます.よって,遠藤氏を特別功労賞に推薦します. |
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