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第10回(2013年度)加速器学会賞受賞者が決定した。
2014年5月28日開催の学会賞選考委員会における選考をもとに、評議員会で審議した結果、以下のとおり決定した。

受賞者の氏名(敬称略)

奨励賞
PASJ Award for Young Scientists
  坂上 和之 早稲田大学理工学術院
 
技術貢献賞
PASJ Award for Technical Contributions
  永井 良治 原子力研究開発機構
  西森 信行 原子力研究開発機構
  山本 将博 高エネルギー加速器研究機構
  青  寛幸 日本原子力研究開発機構J-PARC
  菅野 東明 三菱重工業株式会社
  岩下 芳久 京都大学・化学研究所
  早野 仁司 高エネルギー加速器研究機構
  渡邉  謙 高エネルギー加速器研究機構
 
特別功労賞
PASJ Award for Significant Contributions
  岡本  正 元 東芝株式会社
 
受賞者の氏名、所属、研究課題等、推薦理由は、以下のとおりである。

奨 励 賞

氏名:坂上 和之
所属:早稲田大学理工学術院
業績:光陰極高周波電子銃の高度化に関する研究

<推薦理由>

光陰極高周波電子銃は、米国ブルックヘブン国立研究所で1.6セルのRF空洞を持つ装置が開発されて以降、 世界中で広く利用されている。
我が国では、KEKを中心に製作技術と性能の向上、新たな利用研究を開拓する研究が行われ、 国内の短パルス電子ビームを利用する研究の発展に貢献している。
坂上和之氏は、RF電子銃とそれを用いたレーザー・コンプトン散乱によるX線発生の研究により早稲田大学大学院から 2009年3月に博士の学位を得て以来、光陰極高周波電子銃の高度化の研究を行なっている。 光陰極高周波電子銃は、装置が小型で、エミッタンスが低く輝度が高い数ピコ秒程度の短いパルス電子ビームを発生できる。 更に短いフェムト秒パルスを発生するには、通常、電子パルスに線形エネルギー変調を与えるRF加速装置と、 磁場中の航路差により短いパルスを発生する特殊なビームラインを用いる磁気パルス圧縮法が用いられる。 坂上和之氏は、一般的な1.6セルRF電子銃にもう一つRF空洞を加えて、比較的エネルギーの低い電子バンチにエネルギー変調を与える 新しい型のRF電子銃を開発し、磁気パルス圧縮法を用いること無しに、電子の速度変化を利用してフェムト秒パルス電子ビームを 発生する小型装置を実現した。周波数の異なる4個の狭帯域のテラヘルツ検出器を用いて測定したコヒーレント放射の強度変化から 発生したバンチが500フェムト秒(標準偏差)以下であることを示した。
この研究は光陰極高周波電子銃に新しい機能を追加して、磁気パルス圧縮装置を用いること無しに 超短パルス電子ビームの発生に成功すると共に、開発した小型装置は超短パルス電子ビームやコヒーレント放射の 利用研究の発展に寄与することが期待される。
よって坂上和之氏を日本加速器学会・奨励賞に推薦する。

技 術 貢 献 賞

氏名:永井 良治
所属:原子力機構
氏名:西森 信行
所属:原子力機構
氏名:山本 将博
所属:高エネルギー加速器研究機構
業績:500kV直流光陰極電子銃の開発

<推薦理由>

永井良治、西森信行、山本将博の3氏は500kV直流光陰極電子銃の研究開発を行い、 世界初となる500kV安定印加運転、500keV電子ビームの発生、そしてcERLに於けるビーム運転に貢献した。 以下に3氏の行った技術開発の概要を述べる。
リニアコライダーの偏極電子源として、あるいはエネルギー回収型リニアックの高輝度電子源として、 低エミッタンスビームを大電流で生成する直流光陰極電子銃の開発が必須である。
低エミッタンスビームの生成を可能にするには電子銃を高い電圧で動作させることが望ましいが、 これまでの最高電圧はJLABの350kVであり、これ以上の高電圧の印加が困難な状況が長く続いていた。
電子銃の高電圧化を阻んできた要因のひとつは、陰極を支えるサポートロッドからの電界放出電子が 周囲のセラミック管を叩くことによって放電を生じさせセラミック管が破損することである。
そこで永井氏は分割型セラミック管と完全遮蔽型のガードリングを提案し、電界放出電子から セラミックを保護することで500kVの長時間印加に世界で初めて成功した。 電子銃の高電圧化を阻んできたもう一つの要因は、放電により帯電した電子銃容器表面上の微細粉塵が 陰極に固着して発生する暗電流である。西森氏は、微細粉塵の帯電には電界放出電子だけではなく、 イオン化したガスが陰極から発生させる2次電子も関係しているという説を立て、陰極と陽極の周囲を 非蒸発型ゲッターポンプで覆うことでガス発生を抑制する等の工夫を行った。これにより暗電流問題を解決し、 エネルギー500keV、最大2mAのビームを供給することに成功した。
一方、光陰極には負電子親和力の表面を持つGaAsが採用されているが、GaAsの取り扱いについては 500 kV電子銃に先立ち山本氏を中心として名古屋大学で行われた200 kV電子銃に関する研究が生かされている。 山本氏らが確立した原子状水素ビームによる表面洗浄、Cs-O2交互添加によるNEA表面の製作、 真空中でのカソードパックの移送などの技術が今回の500 kV電子銃の基盤となっている。
本研究チームが開発し習得した技術と知見は世界の直流光陰極電子銃開発において広く貢献することは必至である。
以上の理由により永井良治、西森信行、山本将博の3氏を加速器学会技術貢献賞に推薦する。

技 術 貢 献 賞

氏名:青  寛幸
所属:日本原子力研究開発機構J-PARC
氏名:菅野 東明
所属:三菱重工業株式会社
業績:J-PARC・ACS空洞の開発

<推薦理由>

青寛幸氏と菅野東明氏は、それまで高エネルギー加速器研究機構が行ってきた環結合型加速構造 [Annular-ring coupled structure (ACS)]の基礎研究を基に、実用化に向けた開発研究を精力的に進めてきた。
ACS空洞をはじめとする高β加速空洞では、複数のモード周波数を調整する必要があり、どのタイプの加速管においても 量産には困難がつきまとっていた。
青氏は、対称性の良い電磁場分布というACS空洞がもつ基本特性の良さを活かしたうえで、結合セル用の回転式チューナーの開発、 高周波窓の品質管理方法の確立など、また、菅野氏は、5軸加工機をもちいた高度な製造技術の確立、超精密旋盤を用いた 高い加工精度の安定的実現を成し遂げ、J-PARCでの実運用に向けた量産、調整、品質管理技術を確立することに成功した。
この成果により、2009年からACS空洞21台の量産が始まり、全ての空洞を予定通り2013年の3月までに完成することができた。
さらに、2014年1月17日には400 MeVまでのビーム加速を確認した。これはACS空洞としては世界初のビーム加速となる。
以上のように、両氏は、粘り強い開発を継続し、様々な技術的困難を克服して、短期間での加速管製作・ビーム加速へと結びつけた。
これは本賞に十分に値する業績と考え、青寛幸氏と菅野東明氏を加速器学会・技術貢献賞に推薦する。

技 術 貢 献 賞

氏名:岩下 芳久
所属:京都大学・化学研究所
氏名:早野 仁司
所属:高エネルギー加速器研究機構
氏名:渡邉  謙
所属:高エネルギー加速器研究機構
業績:超伝導加速空胴・表面仕上げシステムの開発

<推薦理由>

次世代高性能加速器の重要技術課題として、超伝導高周波加速空胴(SCRF)の高性能化(高加速電界化)の研究開発が、 世界の加速器研究機関および産業界で取り組まれてきた。
加速電界の達成記録は着実に進展してきたが、個々の空胴性能のバラツキが大きく、高電界達成までには 低温試験や空胴内面全体の再処理の繰り返しを要すなど、歩留まりの改善が重要な課題であった。
本研究開発は、空胴内表面の状態を非接触で光学的に可視化する「超伝導加速空胴の内面検査システム」の機能を高度化し 発展させたもので、「検出した空胴内面の欠陥と空胴性能限界の相関解明」、「欠陥の局所補修プロセスの確立」 「補修後の空胴性能の飛躍的な向上」を世界に先駆けて成し遂げたものである。
早野仁司氏は、空胴内表面欠陥と到達加速電界の関連に注目し、欠陥の診断とその後の局所的補修技術の手法を提唱し、 欠陥除去および表面処理法の基本概念を構築した。 また、日本、欧州、米国の異なる研究機関(KEK、FNAL、JLAB、DESY、CERN)で、異なる手法で開発された加速空胴に適用し、 いずれも良い結果を示すなど、本手法が国際的に認知される道を拓いた。
岩下芳久氏は、「超伝導加速空胴の内面検査システム」の高度化を図るとともに、シリンダー内部に収納できる 空胴内面局所研磨装置の具体的な設計・製造を主導し、研磨条件の定量化など改善を重ね、有害欠陥の除去に道を開いた。
渡邉謙氏は、本検査・補修システムを用い、光学的に検知された欠陥の形状寸法を、レプリカ法を併用し3次元定量化し、 空胴性能限界と欠陥形状寸法との相関を見出した。 また、欠陥除去の加工代やその後の表面処理も含めプロセスの最適化を図るとともに、診断・補修のノウハウを蓄積し、 実際の加速空胴(各研究機関の製造した空胴)に適用し、欠陥の検出およびその局所的除去が空胴の性能改善に有効であることを示した。 また、空胴製造プロセスにおける欠陥の発生防止策や品質保証システムの構築にも道を拓いている。
一連の研究開発の結果、各研究機関で準備したILCを想定した空胴において、加速限界性能が20MV/mレベルであったものが、 仕様値35MV/mを超える性能を達成するまで改善された。この結果、煩雑な低温試験(竪測定)の回数低減が可能となり、 また空胴製造の歩留まり9割以上を達成する見通しが出来るまでになった。このことは次期大型加速器建設プロジェクトにおいて、 工程リスクの低減、建設コストの精度向上に大きく関り、プロジェクト推進に貢献出来ることを示した。
以上の理由により、早野仁司氏、岩下芳久氏、渡邉謙氏を加速器学会技術貢献賞に推薦する。

特 別 功 労 賞

氏名:岡本 正
所属:元 東芝株式会社
業績:大電力CWおよびパルスクライストロン製作技術確立に関する功績

<推薦理由>

岡本正氏は、1960年に大阪大学工学部通信工学科を卒業し、同年東芝に入社し1971年電子事業部を経て 1993年電子管事業部技監として退職するまで、加速器および核融合等先端機器用のマイクロ波、ミリ波電子管の開発を主導した。
岡本正氏の加速器関係への顕著な貢献は、TRISTAN(高エネルギ−電子陽電子衝突型リング)の建設が開始された時、 日本でのクライストロンの製作能力は連続出力200kWのものが最大で、TRISTAN計画で要求された1MW級の製作技術は無く、 世界でもバルボ(当時)社の800kWが唯一のものであった状況の中で、1.2MWのクライストロンの開発を主導し多くの問題を解決して 製作技術を確立したことである。現在でもこの1.2MW世界最高性能クライストロン製造功績が非常に顕著であることは疑う余地の無いものである。
真空封止や真空排気の方法、真空コミッショニングの方法等を、基本に立ち返って考察し対策を行う事で真空度に関わる問題を解決した。
また、セラミック製出力窓の損傷に対しては、セラミック内でのマイクロ波損失による熱ひずみにより破損する事を突き止め、 セラミック内での電界をできる限り下げる構造をとることで損失を低減した。さらに表面でのマルチパクタリングによる損傷に対しては、 形状の最適化でこれを抑制するとともに熱応力に強い高純度セラミックの開発により解決するなど、多くの技術開発を集大成し、 要求された性能の実現と高い信頼性を併せ持つ1.2MWのクライストロン製作技術を確立した。
一方、線型加速器に用いられるS-band等パルスクライストロンの大電力化の開発にも取り組み、信頼性の高いクライストロンの供給を実現し、 その技術はJ-PARC線型加速器および自由電子レーザーSACLAに於ける大電力パルスクライストロンの製作に引き継がれている。 以上のように、岡本正氏が主導し開発した蓄積リングおよび線型加速器用の大電力連続およびパルス出力クライストロンや、 それらに関連した開発技術は、KEK-BやSPring-8/SACLA、J-PARC等最先端加速器システムにおいて必須な基盤技術として、 素粒子物理や放射光科学、X線レーザー等の最先端科学の発展に今でも非常に貢献している。
長年に渡って大電力クライストロンを初めとするマイクロ波電子管等の開発に尽力し、有能な後継者を育成して、 現在もマイクロ波応用技術に関するコンサルティング業を行っている。
以上の理由により、岡本正氏を加速器学会特別功労賞に推薦する。