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第9回(2012年度)加速器学会賞受賞者が決定した。
2013年5月19日開催の学会賞選考委員会における選考をもとに、評議員会で審議した結果、以下のとおり決定した。

受賞者の氏名(敬称略)

  
技術貢献賞
PASJ Award for Technical Contributions
  今尾 浩士 独立行政法人理化学研究所
  奥野 広樹 独立行政法人理化学研究所
  久保木浩功 独立行政法人理化学研究所

特別功労賞
PASJ Award for Significant Contributions
    沢辺 元明 高エネルギー加速器研究機構

受賞者の氏名(所属)、研究課題等、推薦理由は、以下のとおりである。

技 術 貢 献 賞

氏名:今尾 浩士
所属:独立行政法人 理化学研究所
氏名:奥野 広樹
所属:独立行政法人 理化学研究所
氏名:久保木浩功
所属:独立行政法人 理化学研究所
業績:高速重イオンビームのためのガス荷電変換装置の開発

<推薦理由>
 荷電変換装置は、重イオンビームを多段接続の加速器で高エネルギーまで加速する場合に、加速器装置の性能を左右する重要な装置である。 これまで荷電変換には炭素薄膜が用いられることが多かったが、近年、ウランビームに対する炭素薄膜の寿命は非常に短いということがわかってきた。 例えば理研RIビームファクトリー(RIBF)の場合、炭素膜の寿命は最終目標強度より2桁低いビームに対して10時間程度であった。 この問題は世界の重イオン加速器施設で広く認識され、炭素薄膜に代わる新しい荷電変換装置の出現が待ち望まれていた。 寿命や安定性に問題のないガスを使った荷電変換装置が候補の一つであったが、平衡電荷がかなり下がるということと mg/cm2程度の厚さの窓なしガスセルの製作が容易でないことから開発がなかなか進まなかった。今尾浩士、奥野広樹、久保木浩功の3氏は、 このガス荷電変換装置の開発に敢然と取り組み、3年余の時間をかけてその開発に成功した。
 まず久保木氏は、原子核実験用に開発されたガス標的の差動排気能力を増強して荷電変換に必要な量の窒素ガスを溜めることに成功し、 窒素ガスによって得られるキセノンビームの平衡電荷が後段のサイクロトロンで受けられること、 また窒素ガスではウランビームの平衡電荷は低く後段のサイクロトロンでは全く受けられないことを示した。 奥野氏は、炭素薄膜と久保木氏の荷電変換装置を使って、ヘリウムガス(0.014 mg/cm2)によるウランビームの電離と 電子捕獲の断面積を測定してその結果から平衡電荷を推測し、ヘリウムガスを使えば窒素ガスの場合に比べてかなり大きな平衡電荷が得られ その値(66価)は後段のサイクロトロンを改造すれば受け入れ可能な値であることを見出した。今尾氏は、綿密な流体計算に基づき、 まず平衡電荷を測定するためのヘリウムガスセル(長さ8m)をビームライン中に構築してその値が予想値に近い値(65価)であることを示した後、 さらにオリフィスや差動排気系を最適化して最終的に50 cmの短尺ガスセルに1.8 mg/cm2の厚さのヘリウムガスを溜めることに成功した。
 3氏の開発したガス荷電変換装置は、2012年のRIBFの2ヶ月間のビームタイム中ほとんど故障なしに動作し、 実効的に前年比10倍の強度のウランビームに対しても劣化はほとんど見られず、良好な性能を発揮した。 一連の開発の成功は世界の注目するところとなっており、この装置が今後重イオン加速器施設において標準装備として用いられることは必至である。
 以上の理由により、今尾浩士、奥野広樹、久保木浩功の3氏を加速器学会技術貢献賞に推薦する。


特 別 功 労 賞

氏名:沢辺 元明
所属:高エネルギー加速器研究機構
業績:超伝導加速空洞の表面処理技術向上に関する功績

<推薦理由>
 沢辺元明氏は、2007 年に高エネルギー加速器研究機構着任以来、 国際リニアコライダー用超伝導加速空洞の表面処理技術として採用された電解研磨技術の確立とその最適化、 特定化学物質(硫酸、フッ酸等)を扱う電解研磨設備プラントの安全運転・維持・管理・効率化に尽力してきている。
沢辺氏の着任当時、超伝導空洞の加速電界強度は目標を大きく下回り、表面処理技術の確立は、 空洞製造技術の確立と並んでリニアコライダー実現の正否を決定付ける状況にあった。 沢辺氏は、KEK の機械工学センターおよび加速器研究施設の職員と協力し、電解研磨設備の設計・建設・試運転・性能向上に取り組み、 その結果、空洞製造技術の向上と相まって、2011 年にはILC 用超伝導空洞の性能は目標を達成するに至った。 さらに沢辺氏は、KEK超伝導空洞開発グループの協力を得て、材料(高純度Nb)表面に付着した物質の同定、 電解液に残存するNb の含有量と空洞性能との関係を詳細に調べ、表面処理技術を科学的な手法として確立することに大きく貢献した。
沢辺氏らが確立した電解研磨手法は,リニアコライダーのみならず、ERL や放射光用の超伝導空洞等、今日では幅広く利用されている。 電解研磨手法とそれを用いた電解研磨設備プラントの安全かつ高効率な運転の確立に対する沢辺氏の功績が非常に顕著であることは疑う余地がない。
以上の理由により、沢辺元明氏を加速器学会特別功労賞に推薦する。