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第8回(2011年度)加速器学会賞受賞者が決定した。
2012年6月30日開催の学会賞選考委員会における選考をもとに、評議員会で審議した結果、以下のとおり決定した。

受賞者の氏名(敬称略)

奨励賞
PASJ Award for Young Scientists
  高木 宏之 東京大学物性研究所
技術貢献賞
PASJ Award for Technical Contributions
  日暮 祥英 独立行政法人理化学研究所
  大西 純一 独立行政法人理化学研究所
  湊  恒明 三菱電機株式会社
    上野 健治 高エネルギー加速器研究機構
    田中 隆次 独立行政法人理化学研究所
特別功労賞
PASJ Award for Significant Contributions
    村上  豊 元住友重機械ファインテック株式会社

受賞者の氏名(所属)、研究課題等、推薦理由は、以下のとおりである。

奨 励 賞

氏名:高木 宏之
所属:東京大学物性研究所
業績:パルス六極磁石による入射方式の開発

<推薦理由>

 高木宏之氏は東京大学物性研究所において、放射光源用電子蓄積リングの軌道解析、入射システムの研究開発に従事してきた。その中で同氏は、世界に先駆けてパルス六極磁石による新しい入射方式を提案しその実証実験に成功した。近年、従来の二極キッカー磁石を用いた入射方式に代わるものとして、パルス四極磁石による入射方式が提案され実証実験も行われた。1台のパルス磁石で入射が可能であることに加え、バンプ軌道の形成無しに入射が行える点で放射光源におけるトップアップ運転に適していることから注目を集めた。その一方、この方式では蓄積ビームの四重極振動が誘起され、放射光利用実験の支障となることも知られていた。高木氏は、これを抑制するためにパルス六極磁石を用いることを提案した。Photon Factoryでの実証実験では、軌道解析、電磁石および電源の設計・製作、据付調整からマシンスタディまで、高木氏はその中心的役割を果たした。実証実験では、パルス四極磁石で問題となった蓄積ビームの四重極振動が抑制されていることが確認できた。この研究成果により、パルス六極磁石によるビーム入射は、パルス四極磁石よりも実用性に優れる点が広く認識され多くの放射光施設で導入が検討されるに至っている。

 このように高木氏の研究成果は、放射光源加速器技術の発展に大きく寄与する優れた業績であり、奨励賞の受賞に十分に値するものであると判断される。本賞が、高木氏の更なる発展のための励みとなることを期待して、加速器学会奨励賞に推薦する。


技 術 貢 献 賞

氏名:日暮 祥英
所属:独立行政法人 理化学研究所
氏名:大西 純一
所属:独立行政法人 理化学研究所
氏名:湊  恒明
所属:三菱電機株式会社
業績:28 GHz 超伝導ECR イオン源の開発

<推薦理由>

 ウランのような非常に重い元素の多価イオンを大強度で生成するには高い周波数のマイクロ波を用いた超伝導のECRイオン源が不可欠となる。日暮祥英、大西純一、湊 恒明の3氏は理研RIビームファクトリー用として28 GHz 超伝導ECR イオン源を開発した。このイオン源の特徴は、同じ周波数のマイクロ波でより強度の高い多価イオンを生成できるようにする目的で、6個のソレノイドコイルを用いてミラー磁場を生成することによってミラー比・ECRゾーンの大きさ・ECRゾーンにおける磁場傾きを独立かつ広範囲に変化させることができるようになっていることである。このような構造では、ソレノイドコイルの内側に置かれた6極コイルの端部にかかる力が大きくなりそれをサポートする支持構造の設計には特段の注意が必要となる。彼らはこのような問題点を詳細な計算と配慮の行き届いた設計で克服し、大きなトラブルもなく完成させ、ウランの多価イオンビームを生成することに成功した。また、より大きなECRゾーンサイズ、ECRゾーンにおける緩やかな磁場勾配が多価イオンのビーム強度の増強を可能にすることを世界で初めて実験的に検証した。

 3氏はこのイオン源の開発において主導的な役割を果たした。日暮氏は主に概念設計・18 GHzと 28 GHzのマイクロ波を用いたビーム増強のためのテスト実験・ウランビーム生成法の確立と強度増強を行った。大西氏は主に超伝導コイルの詳細設計・複雑なコイルのより安全な励磁方法の確立・ジャイロトン出力の安定化を行った。湊氏は超伝導コイルおよび熱流入の小さいクライオスタットの詳細設計および製作を行った。

 このイオン源が今後の重イオン加速器用の新しいECRイオン源の設計指針となることは必至である。  以上の理由により、日暮祥英氏、大西純一氏、湊 恒明氏を加速器学会技術貢献賞に推薦する。



氏名:上野 健治
所属:高エネルギー加速器研究機構
業績:電子陽電子リニアコライダー用加速空洞の研究開発

<推薦理由>

 上野健治氏は電子陽電子リニアコライダー用加速空洞(Xバンド加速管、超伝導加速空洞)の製造技術開発において以下のような多大な貢献をした。

1. Xバンド加速管のディスクを拡散接合する場合に、電気パルス通電接合を付加することによって、従来の拡散接合における寸法精度問題を解決した。
2. シームレス空洞製造設備の設計開発によって、Nbシームレスパイプによる3セルモデル空洞試作を実現した。これは超伝導空洞の性能向上とコスト低減への技術革新に繋がる可能性を与えている。
3. 超伝導空洞用電界研磨設備の設計・建設によって、ILCの目標である電界強度35MV/mを超える高性能な空洞製作を幾例も実現した。
4. 超伝導空洞製造技術開発施設を設計・建設し、KEK内で一本目の試作空洞を完成させ、29MV/mという高い電界性能を有することを確認した。このことによりKEK内設備を使って国内外研究機関協力および民間企業との技術協力によりILC空洞製作をさらに発展させる基盤を築いた。

以上の理由により、上野健治氏を加速器学会技術貢献賞に推薦する。



氏名:田中 隆次
所属:独立行政法人 理化学研究所
業績:アンジュレータ用 In-situ 高精度磁場測定装置開発

<推薦理由>

 短周期真空封止アンジュレータの応用は多岐に渡るが、従来型のEx-situ磁場計測手法では、XFELの増幅部として、また、クライオアンジュレータとして利用する場合、目標磁場精度を確保できないという困難な問題があった。田中氏はホールプローブを走査するレール並びに走査用のガイド及び遠隔調整機構を真空槽内に持ち込み、プローブの3次元位置を開発したレーザー計測系で検出し、プローブ位置を制御しながらアンジュレータの長手方向にホールプローブを走査し、長さ5 mにも及ぶアンジュレータ磁場をIn-situで高精度(3次元位置精度 < シグマ10 m)に計測するシステムSAFALI (Self-Aligned Field Analyzer with Laser Instrumentation)を開発した。
 これによりSLSで稼働中のクライオアンジュレータ磁場の世界初のIn-situ精密計測に成功し、その測定法はSACLAの18台のアンジュレータの高精度磁場調整を実現させた。SACLAの輝かしい成功に大いに貢献したことは明らかである。

 以上の理由により、田中隆次氏を加速器学会技術貢献賞に推薦する。



特 別 功 労 賞

氏名:村上  豊
所属:元住友重機械ファインテック株式会社
業績:挿入光源の実用化とその普及に関する功績

<推薦理由>

 村上 豊氏は放射光源加速器の挿入光源が本格的になる1980年代から現在に至るまで、長年に渡り挿入光源の設計・製作に従事してきている。同氏が関わった挿入光源は、わが国はもとより世界各国の放射光施設に導入され、その多くが現在も稼働を続けており、加速器の放射光への利用拡大に多大な貢献をしている。
 挿入光源における光源性能はその磁場精度であり、これを保証するのが磁石性能であり、更にこの磁石間隙を精密に制御する機械部の性能が重要であることは言を待たない。同氏は、この挿入光源装置の機械部の設計・製作を長年に渡り担当してきた。これに関する技術開発により、6件の特許を取得している。特に、真空封止アンジュレータでは、挿入光源の機械部と超高真空部が複雑に結びついている。同氏は世界初の真空封止アンジュレータの設計・製作に取り組み、これを完成させるとともに、SPring-8に導入された真空封止アンジュレータは世界の標準となっている。また、X線自由電子レーザーSACLAに導入された長尺アンジュレータでは、ラジアル専用、スラスト専用の軸受を別々に用意し、サブミクロンレベルの磁石間隙の制御を可能にし、X線自由電子レーザーの発振に多大な貢献をした。 村上豊氏は以上のように挿入光源の実用化とその普及に多大な貢献をしてきており、これは同氏の、常に初歩に立ち帰り徹底的にその技術の積み上げを行う態度から来ており、完成された挿入光源が世界の標準になるのは必然のこととも言え、わが国の挿入光源技術とこれを用いた加速器の応用科学分野における世界的地位を最高水準に押し上げてきたことは、疑う余地がない。

 以上の理由により、村上豊氏を加速器学会特別功労賞に推薦する。