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第7回(2010年度)加速器学会賞受賞者が決定した。
2011年6月13日開催の学会賞選考委員会における選考をもとに、評議員会で審議した結果、以下のとおり決定した。

受賞者の氏名(敬称略)

奨励賞
PASJ Award for Young Scientists
  山本 尚人 名古屋大学 シンクロトロン光研究センター
  石橋 拓弥 高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設
  島田 美帆 高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設
技術貢献賞
PASJ Award for Technical Contributions
    山本 和男 三菱電機株式会社 先端技術総合研究所
特別功労賞
PASJ Award for Significant Contributions
    藤澤 高志 元理化学研究所

受賞者の氏名(所属)、研究課題等、推薦理由は、以下のとおりである。

奨 励 賞

氏名:山本 尚人
所属:名古屋大学 シンクロトロン光研究センター
業績:NEA-GaAsフォトカソード電子ビームの低エミッタンス化、高輝度化に関わる技術開発

<推薦理由>

 山本尚人氏は、偏極電子源開発で最先端の成果を上げている名古屋大学中西研究室に所属して、NEA-GaAsフォトカソード(バルクGaAs, GaAs超格子薄膜)の初期エミッタンスを200keV電子銃と彼が設計・製作した測定システムを使い系統的に評価した。両カソードにおいて規格化エミッタンスの値が0.15 pi.mm.mrad以下にできることを実証したことは、「国際リニアコライダー(ILC)」や「エネルギー回収型ライナック(ERL)」の電子源性能をさらに高められることを示した画期的な成果である。また、透過光フォトカソード型20kV偏極電子銃を試作した。透過光フォトカソードを実現したのは世界初であり、この新方式によってカソード上でのレーザーサイズ1.3um(FWHM)を実現することで、従来型の1000倍以上の高輝度電子ビーム生成に成功した。この方式の偏極電子ビーム源(投影型表面電子顕微鏡(LEEM))によって、ナノ表面磁区構造変化の実時間観測を実現したことは、受賞に値する研究開発実績である。

 山本氏は、透過光フォトカソードの論文で2009年応用物理学会論文賞を受賞して、現在名古屋大で中規模放射光建設を推進している。本賞に十分に値する人物と業績と考える。さらに国際的メジャーな賞を狙える人材と判断されるので、本賞がさらなる発展のための励みとなることを期待するものである。 

 以上の理由により、山本尚人氏を加速器学会奨励賞に推薦する。






氏名:石橋 拓弥
所属:高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設
業績:低エネルギー・大強度重イオン加速のための2ビーム型IH-RFQ線形加速器の研究開発

<推薦理由>

 石橋拓弥氏は、1台の加速空洞で2ビームを並列に加速するという独創的なIH-RFQ線形加速器を世界で初めて開発し、108 mAという極めて大電流の炭素ビームの加速試験に成功した。低エネルギービームの大電流加速は、空間電荷効果により物理的に上限が制限されるので、重イオン慣性核融合等の大電流が必要となる利用分野では、マルチビーム加速が必須となる。マルチビーム型のIH-RFQ加速器は、1990年代にGSIにおいて提案されたが、加速器の構造が複雑であり、設計や製作が難しく実現されていなかった。石橋氏は、ビーム解析、高周波電磁界解析、熱・構造解析を統合連成し、1台の加速空洞中に2並列のRFQ電磁界を励振させることができるIH-RFQ加速器を設計し、製造メーカの精密機械加工技術をうまく利用して加速器全体システムを構築し、ビーム加速試験により大電流の2ビーム加速試験に成功した。

 このように、石橋氏は前人未踏の困難かつ挑戦的な加速器システム全体の設計、製作、ビーム試験の全てを経験しながら、数多くの技術的課題をオリジナルな発想と、製造メーカとの連携により解決し、加速器学の大きなブレークスルーを実現した。本業績は、LINAC2008のStudent Award受賞、平成22年度東京工業大学手島精一記念研究賞受賞で対外的にも認められており、本賞に十分に値する人物および業績と考える。今後は加速器物理および製作技術の両方の専門的知識と経験を有する研究者として加速器学を更に発展させることを期待するものである。

 以上の理由により、石橋拓弥氏を加速器学会奨励賞に推薦する。






氏名:島田 美帆
所属:高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設
業績:コヒーレントシンクロトロン放射に関するビーム力学的研究

<推薦理由>

 島田美帆氏は、高エネルギー加速器研究機構においてエネルギー回収型ライナックにおけるコヒーレントシンクロトロン放射のビーム性能への影響に関する研究を行ったのを手始めに、今日に至るまで、コヒーレントシンクロトロン放射に関するビーム力学的研究やその利用法に関する研究を精力的に行ってきた。

 分子科学研究所UVSOR施設においては、レーザースライス法により蓄積リングを周回する電子バンチ上にサブピコ秒スケールの微細な密度構造を形成しコヒーレントシンクロトロン光を生成する実験において中心的な役割を果たした。電子バンチの放出するコヒーレントシンクロトロン光を帯域の異なる複数の超高速テラヘルツ検出器を用いて観測することで、そのスペクトルが複雑に時間変化することを見い出し、これが横方向と縦方向の運動が結合することでバンチ上の微細構造が複雑に時間発展する結果であることを明らかにした。コヒーレントシンクロトロン光の発生や、極短電子パルスの生成や輸送に関する重要な成果としてPhysical Review Letters誌に掲載され、また2010年のIPAC’10では口頭発表に選ばれるなど、極めて高く評価された。

 島田氏は現在、高エネルギー加速器研究機構において、エネルギー回収型ライナックの設計・建設における中核メンバーとして活躍するとともに、コヒーレントシンクロトロン光を光共振器に蓄積し逆コンプトン散乱させることでX線源として利用するという斬新な光発生法の提案を行う等、精力的に研究活動を行っている。

 島田氏のコヒーレントシンクロトロン放射に関するビーム力学的研究やその利用法の開拓における優れた業績は本賞に十分に値するものである。よって島田美帆氏を加速器学会奨励賞に推薦する。


技 術 貢 献 賞

氏名:山本 和男
所属:三菱電機株式会社 先端技術総合研究所
業績:医療用陽子線シンクロトロン向け入射器の開発

<推薦理由>

 山本和男氏は、医療用陽子線シンクロトロンの入射器として、RFQ線形加速器とAPF-IH線形加速器の組み合わせを提案し、三菱電機株式会社の関係者と協力してその開発に取り組み、世界で初めてAPF-IH型を用いた陽子線入射器を実用化した。このAPF-IH線形加速器は、加速電界のみで横方向収束を行うために収束電磁石を必要とせず、しかも、IH型であるために高い電力効率が期待できることから、普及型炭素線がん治療装置の入射器として放医研で開発されすでに群馬大で稼働している。しかしながら、陽子線への応用ではピーク強度が炭素線の場合の20倍以上必要となり、空間電荷効果のため、その実用化は困難とされてきた。山本氏は、電極構造や位相の取り方に独自の工夫を凝らし、7MeV、10mAの陽子ビーム加速に成功した。さらに、1台の高周波電源から2台の線形加速器に高精度に電力を分配供給することができる電力分配装置を開発した。これにより、機器点数を低減できるようになったとともに、2台の線形加速器間での位相調整が不要になり調整作業の少ないメンテナンスの容易な入射器システムを実現し、医療のための加速器としてまさに待望のシステムを構築した。この入射器システムはすでに納入先で陽子線がん治療に供されている。

 以上の理由により、山本和男氏を加速器学会技術貢献賞に推薦する。


特 別 功 労 賞

氏名:藤澤 高志
所属:元理化学研究所
業績:サイクロトロン等における高周波加速装置の開発に関する功績

<推薦理由>

 藤澤高志氏は理化学研究所へ入所した1962年以来一貫して高周波に関わる装置の開発、設計製作を行ってこられた。

 理化学研究所での特筆すべき業績はリングサイクロトロン用に新しい方式の高周波共振器を発明したことである。この共振器は movable box 方式 1/2 波長同軸型共振器で、通常のショート板方式だと高さが 11 m ほどになるものを 2.1 m にまでコンパクトなものにすることができた。また、ショート板方式では内導体(ステム)の電流密度が約70 A/cmと大きくコンタクトフィンガーの製作が困難であった。しかしmovable box 方式ではステムにコンタクトフィンガーが接触していないためこの困難を避けることができた。この共振器の発明はリングサイクロトロンの実現に大きく貢献した。

 1990年に電気興業株式会社に移られてからは産業用電子加速器の開発を一から行った。藤澤氏がそれまでに培った知識と経験をフルに生かして配慮の行き届いたシステムを完成させている。

 さらに1999年に放射線医学総合研究所に移られてからは非破壊型プロファイルモニターの開発や APF (Alternating-Phase-Focusing)方式 IH 型 DTLの開発に従事した。これらの開発においては自ら新しいアイデアを出すことはもちろんのこと若い人の教育も熱心に行った。なお、この2つの開発研究はいずれも本学会奨励賞(橋本氏、岩田氏)を受賞している。

 藤澤氏はサイクロトロン等の比較的周波数の低い高周波系の分野では有数の研究者・技術者で、上述したとおり高周波を通して加速器に多大な貢献をされてきた。氏のスタイルの特徴は何を製作するにおいても常に原理に立ち戻って徹底的に考えそこから新しいアイデアをひねり出すということにあると言える。また、理研時代からずっと後進を育成することも熱心に行ってこられた。勉強会や議論を通じて藤澤氏の薫陶を受けた人は相当な数にのぼると思われる。

 以上の理由により、藤澤高志氏を加速器学会特別功労賞に推薦する。