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第5回(2008年度)加速器学会賞受賞者決まる。
2009年5月23日開催の学会賞選考委員会における選考をもとに、評議員会で審議した結果、以下のとおり決定した。

受賞者の氏名(敬称略)

奨励賞
PASJ Award for Young Scientists
  高井良太 高エネルギー加速器研究機構加速器研究施設
  中村啓 ローレンスバークレー国立研究所
技術貢献賞
PASJ Award for Technical Contributions
    佐藤眞二 放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター
    渡川和晃 理化学研究所、X線自由電子レーザー計画推進本部
    壁谷善三郎 三菱重工業株式会社プラント・交通システム事業センター
特別功労賞
PASJ Award for Significant Contributions
    山下 毅 平和電源株式会社

受賞者の氏名(所属)、研究課題等、推薦理由は、以下のとおりである。

奨 励 賞

氏名:高井良太
所属:高エネルギー加速器研究機構加速器研究施設
業績:ビーム物理専用の非中性プラズマトラップシステムの設計・製作

<推薦理由>

 高井良太氏は、広島大学大学院在学中に、標記システムを設計・製作した。これは非中性プラズマトラップのデモ機であり、理論と数値計算の実証が可能になる。氏は装置製作のみならず、トラップの詳細な3次元構造を考慮した粒子軌道シミュレーションも実施した。窒素やアルゴンイオンを使った実験でも約1千万個の粒子を安定に捕捉した。またトラップの動作点を掃引することでプラズマのチューンサーベイを実施し、非線形共鳴による危険なストップバンドの存在も実証した。さらに、共鳴の発現と捕獲粒子数の関係も詳細にサーベイし、空間電荷効果によるチューン降下率の系統的実験レベル0.8を記録した。
 アメリカのプリンストン大学のグループは同様のシステムを製作しているが、トラップ領域は直径20cm軸長280cmであり、氏の直径1cm軸長22cmに比べ遥かに大きい。氏の装置は大学で実験できるコンパクト性を有している。
 氏はリーダーとして、ビーム物理理論と数値解析の実験的デモと検証が可能なこのような教育システムを、他の学生や研究室メンバーを指導して製作し構築した。氏の卒業後も、後輩たちが本装置を活用しレーザー冷却や空間電荷効果といったビーム物理の研究分野で注目すべき成果を上げつつある。氏の装置の精度・信頼性の高さを実証するものである。
 本件に関わる氏自身と以後の研究室の業績は、氏の加速器技術の高さを証明するものであり、この分野での今後の活躍を確約するものである。大学にトラップビーム物理の実証・可視化装置が存在することは、学生へのビーム物理・加速器理工学の教育効果は甚大であると言える。氏は現在この装置に直接関わる研究開発を行っているわけでない。しかし氏はまだ若く、今後もこの成果を越える業績を挙げることが十分期待できる。
以上の理由により、高井良太氏を加速器学会奨励賞に推薦する。



氏名:中村 啓
所属:ローレンスバークレー国立研究所
業績:レーザープラズマ加速器によるGeV電子ビームの診断

<推薦理由>

 中村啓氏は、ローレンスバークレーの研究グループの一員として、レーザープラズマ加速器で発生した電子ビームの診断に必要な超広帯域スペクトロメーターの開発を行い、同グループによる世界で最初となるレーザープラズマ加速器からのGeV電子ビームの生成に大きく貢献した。
 超高強度レーザー技術を応用したレーザープラズマ加速器が国内外で精力的に研究されている。100GV/mにも達する超高電場による粒子加速が実用化すれば、高エネルギー加速器の飛躍的な小型化につながると期待される。しかしながら、同一の装置を用いたとしてもレーザーとプラズマのパラメータのわずかな違いで電子エネルギーが何桁も変化するといった現象ゆえに、実験を通じた特性理解と最適化に困難があった。
 これらの困難を克服するために、中村氏は10MeVから1100MeVまでの電子をシングルショットで計測可能な超広帯域スペクトロメーターを開発した。この装置は、超広帯域でありながらパーセントレベルの分解能を有し、電子ビームの発散角も同時に測定できる優れた性能をもつ。ローレンスバークレーの研究グループは、中村氏が開発したスペクトロメーターを用い、世界で初めてレーザープラズマ加速器によるGeVレベルの電子ビームの生成を達成した。さらに、中村氏はレーザーとプラズマの条件を変えながら実験を繰り返し、加速電子の安定性を定量的に議論した。これらの実験成果は、レーザープラズマ加速器の研究開発における顕著な進展であると高く評価できる。
 以上の理由により、中村啓氏を加速器学会奨励賞に推薦する。



技 術 貢 献 賞

氏名:佐藤眞二
所属:放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター
業績:HIMACシンクロトロンにおける取り出しビーム強度変調システムの開発

<推薦理由>
 佐藤眞二氏は、これまで世界に例のない呼吸同期可能な3次元ペンシルビームスキャニング照射法の実用化のための中心技術であるシンクロトロンからの取出しビームの強度変調システムを開発し、その実用化に大きく貢献した。
 現在、粒子線がん治療の分野では、高精度照射法として3次元スキャニング法が既に実用化されているが、呼吸とともに変動する肺や肝臓の治療には適用されてはいない。標的が変動している場合には、従来の3次元スキャニングではスポット毎に決められた線量を正確に照射することが著しく困難になるからである。これを解決するために考案されたのが呼吸位相制御リスキャニング法である。この方法では、標的を深さ方向に分割(スライスと呼ぶ)し、各々のスライス断面が呼気位相(臓器の動きが最も小さい息を吐いた状態)になる時だけにペンシルビームで何度も重ね塗りをすることで、高い照射精度を保つことができる。しかしこの方法では、照射時間がほぼ一定であるのに対し、スライス毎で断面積が異なるため、取り出しビーム強度を適切に変えなければならない。
 佐藤眞二氏は、RF-KOビーム取り出し法における位相空間でのビーム拡散モデルにもとづいてRF-KO電圧の最適値を設定し、マイクロコンピュータチップを利用したフィードフォワード制御によってビーム強度を制御できるシステムを自ら開発した。さらに、フィードフォワードと実際とのずれをフィードバックで補正することにより、非常に信頼性の高いビーム強度変調システムを構築した。これにより、粒子線がん治療において、照射線量率を自由に制御することが可能となり、世界にも例のない呼吸同期可能な3次元ペンシルビームスキャニング照射法の実用化に向けた重要な技術開発を成し遂げた。
 以上の理由により、佐藤眞二氏を加速器学会技術貢献賞に推薦する。

氏名:渡川和晃
所属:理化学研究所、X線自由電子レーザー計画推進本部
業績:CeB6単結晶熱カソードを用いた低エミッタンス電子銃の開発

<推薦理由>
 高品質・高強度を目指す最先端加速器にとって、電子や陽子等を作る電子銃およびイオン源の高性能化が不可欠な時代となってきている。このような状況の中で、渡川氏は、X線自由電子レーザーの実現に不可欠な高輝度熱電子銃の開発を達成した。
 この技術開発は、高輝度電子源として最適な熱カソード材の選定から始まり、1500℃の高温でカソードを一様に加熱できるとともに発生した電子ビームの品質を劣化させないヒーター構造の最適化、空間電荷効果を抑制し高品質電子ビームを実現するために500kVにも達するパルス高電圧による電子ビーム引き出し運転を長時間に渡って安定に継続できる電極構造と絶縁材の採用等、ビーム利用に必須なシステムの完成を目指した取り組みであった。渡川氏は、これら課題を一つずつ科学技術的に解決し、パルス当たり1nC、規格化エミッタンス0.7πmm・mradで、かつビーム強度が安定で長い寿命(約2万時間)を持つ高性能電子銃を実現した。
  この高品質熱電子銃は、8GeV X線自由電子レーザー施設の先行機であるSCSSに導入されSASE発振に大きく貢献したとともに、国内外の利用者から世界で最も安定なSASE発振(波長50-60nm)との評価を受けている最大の要因の一つでもある。また、渡川氏によって高品質と高強度を併せ持つ高輝度電子銃が開発されたことで、機能分離型である熱電子銃システムの優れた特性が見直され、国内外の類似した施設で導入への検討が進みつつある。
 このように渡川氏の熱電子銃に関する本研究・技術開発は、今後FELやERL、ILC等の先端的加速器分野や加速器応用分野の進展に大きく貢献するものとして非常に高く評価でき、加速器学会技術貢献賞に推薦する。

氏名:壁谷善三郎
所属:三菱重工業株式会社プラント・交通システム事業センター
業績:J-PARC DTL/SDTL及びRCSセラミック真空ダクトの開発・量産

<推薦理由>
 壁谷善三郎氏はJ-PARCのDrift-Tube Linac(DTL/SDTL)の建設においてドリフトチューブに内蔵する4極電磁石の小型化、ライナックタンク内面の銅メッキの新たな方式の開発、さらにはRCSで大規模に採用されたセラミック真空ダクトの開発、において幾多の技術的課題を解決した.これらの成果はJ-PARC加速器の順調な立ち上げに寄与したばかりでなく、今後の加速器建設においても貴重な成果として生かされることが期待される.
 大電力RF源として極めて信頼性の高いクライストロンを採用するには、従来よりも高い周波数に対応する、より小型のライナックの開発が必要になる.小型化への大きな課題はDTに内蔵する4極磁石の小型化であり、その案として、永久磁石の採用もあるが強度の変更が不可能であるので、大電流加速のためには運転条件が可変にできる電磁石が望ましい.そこで壁谷氏は、電鋳とワイヤカッティング法を駆使してコンパクトな水冷コイルを製作する技術を開発することにより、小型化を実現させた.またタンクのメッキにおいては、周期的に極性を反転させる銅電鋳法を開拓し、従来のメッキ法では不可能であった、無酸素銅に匹敵する電気伝導を持ち、かつ真空の観点からはガス放出の少ないメッキ層の製作に成功した.
 RCSで計画されたセラミック真空ダクトは、従来と比較して大口径で長尺でありながら厚さが薄く、かつ表面には電磁遮蔽を持つという先端的な設計案であった.真空ダクトとして完成させるために、さらにフランジとの接合部の機械的強度と耐放射線性の確保、低ガス放出率化、二次電子発生の抑制等、多くの技術的課題の解決に貢献した.
 上記の広範囲の技術開発は、J-PARC加速器の建設における量産化に適用されるとともに、その後の加速器の運転実績から判断してそれぞれが極めて高い完成度に到達しており、他への採用も十分に期待できる.以上の理由により壁谷氏を加速器科学技術貢献賞に推薦する.
特 別 功 労 賞

氏名:山下 毅
所属:平和電源株式会社
業績:加速器の高安定度直流電源開発に関する功績

<推薦理由>
 山下毅氏は1964年から45年の長きにわたって民間企業(東京電気精機(株)、東京電子(株)(現(株)IDX))のエンジニアとして加速器の高安定度直流電源の開発に携わってきた。製作納入した施設は、電総研、東大核研、東大物性研、放医研、理研、SPring-8、阪大核物理研究センター、原研、東北大、京大化研、筑波大、姫路工大、KEK、J-PARC、京大原子炉、兵庫がんセンター、静岡がんセンター等、加速器を有する(有した)ほとんどの主要施設をカバーしている。
 山下氏の特筆すべき業績は、その時代のユーザーの要求に応じて新たな技術開発を行ってきたことである。1972年ごろに開発した放医研のAVFサイクロトロン用メインコイル電源(1000 A級)では、可飽和リアクトル+Trドロッパー+間接水冷マンガニンSH方式で±1x10^-5/8Hrの安定度を達成した。この方式はその後、理研、阪大核物理研究センター、原研高崎研、東北大サイクロトロンRIセンターのサイクロトロンの電源の基本回路方式として定着した。理研のリングサイクロトロン用メインコイル電源(1050A/352V)では1983年当時としては最高の±5x10^-6/24Hrの安定度のものを製作している。また、トリスタンでは12相サイリスタ方式を採用し加速器施設での高調波の抑制に努めた(1982年)。超伝導マグネット電源においても、KEKの低温研究センターへ納入する±15V/5000A電源を1975年に製作したが、ここでの技術はその後の超伝導電源においても基本的な方式として採用されている。
 さらに、氏は納入後年月の経った電源の更新に関する提案をする等、アフターケアも並々成らぬ情熱を持っている。現在多くの加速器施設においてビームが安定に供給されているのも氏によるこのような技術開発・アフターケアのたまものであると言っても過言ではない。
 また、現在も企業において技術指導を行いながらNMR用超高安定度(10^-7台)電源や高安定度(10^-5)スイッチング電源の開発に意欲的に取り組んでいる。
 以上の理由により、山下 毅氏を加速器学会特別功労賞に推薦する。